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恩田陸『ねじの回転』

ねじの回転―FEBRUARY MOMENT

ねじの回転―FEBRUARY MOMENT

恩田作品のお気に入りです。恩田作品はおそらくその世界観の独自さで自分には難しいものと、わかると切なくなるものがあるのが特徴だと思う。

この作品でそれは、それぞれの世界がプロジェクトを作る側とその中で動くコマの側ような入れ子型のような形になってて、コマが束縛されてて外からは見れるけど内からはわからない。コマたちは指定された時間内に指定された行動をとるように「歴史」を動かせばいいという役割を与えられている。という形で表される。

話は2.26事件モノで、時間遡航で都合の良いように歴史を塗り替え過ぎたことで逆に生じた人類の危機を、その基点が2.26事件だとしてその歴史の事実を変えて軌道修正をして人類を救おうとする。という「時空越え」(とわたしが勝手に呼んでいる)である。
この時空越えの特徴として例えばかわぐちかいじ『ジパング』とか宮部みゆき『蒲生邸事件』にも少なからず見られるようにその時代の在り様を今の自分たちのイデオロギーや観念なんかで判定して変えていくことが今の自分たちの存在をも含めて崩す、壊すという行為にあたらないかという是非が問われると思うんだけど、この作品はその問題はもうクリアしちゃったことだし、むしろ考えてえて躊躇する事こそ重大危機を招くことになってる。だからどうなるかというと人物は人類救済の為に与えられた仕事を忠実にこなすことだけを考えてやることになる。ところが仕事を与えられたのも与えるのも人間。どこかに個々人の感情あるいは信念があって次第にコマである範囲つまりは設定された役割世界からはみ出してゆく。それがプロジェクトを狂わせて外から内に行ったりズレを直したり、自分たちの信念を実行しようとしたり、そうしてゆくうちに時間がなくなってきたりというところがハラハラドキドキで面白いんだけど、そうして狂わせる者はやっぱりコマなわけで・・「なんとも出来ない」悲しさと「所詮はコマ」だという切なさがほんのちょっと残る。
この作品がお気に入りなのは、登場人物なんていうのは世界なんて超えられないのに世界観ぎりぎりのところまでみんなが頑張ろうとした。けど駄目だった。そんなところにあるのだと思う。